ねぇ。
 こんな日だからって、関係ないのよ?


「I'm home!」
「Welcome home!」
 米沢城城門前では、城主たる伊達政宗の帰還を待ち望んでいたかのように、ずらりと臣達が花道を作っていた。
 大げさすぎるとは政宗も思うのだが、こんなにも喜んで迎えてくれるのは悪くない。むしろ、感激の方が強いだろう。
 悠然と馬を進めていると、横から誰かが立ちふさがるように出てくる。無論、そんな事が出来る上、そうしようと思う者はごくわずかである……己の傅役であった片倉小十郎ならば、当然のようにその一人に入るだろう。
「政宗様。今回はどちらにお出かけで?」
「時に聞いてるだろ? ちょっと見回りさ。今回は亘理まで行って……長松丸の顔もちょっと見に行ったんだけどな」
 もちろん嘘である。政宗はそれを何とか隠しながら言う。
 実は真田幸村との決闘、とは口が裂けても言えないだろう。そのため、政宗は鬼庭綱元と黒脛巾の者に協力してもらい、『言い訳』を用意させたのだ。
 さすがの小十郎も、黒脛巾組に命令くらいは出来るものの、それだけである。綱元の管轄なのだからと、生真面目なほど深く干渉しないようなのだ。ゆえに、小十郎が黒脛巾の動向を知るのは、おそらく不可能と考えての命令である。
「元気そうだったぜ。最近は重宗の馬に乗せてもらうのが好きなんだとさ。だから良く領内を一緒に見回ってるんだとよ……米の育ち具合も上々、って所だな。あいつみてぇに、領民も平和ボケしてるのはマズイかもしんねぇけど」
 政宗は上機嫌に言う。そう言えるのも政宗の代わりに亘理に行った、黒脛巾の報告書を暗記したからだ。亘理を選んだのも、城主にして伊達の親戚筋たる亘理重宗ならば『言い訳作り』に快く参加してくれるだろうと思っての事だ。
「そうでございましたか……」
 と、吟味するように頷く小十郎。どうやら、ちゃんとやっていたと判断してくれたようだ。
「では、溜まりに溜まった執務は、明日きっちりやって貰いますぞ」
「あぁ……そうしてくれ」
 だが、やはりそんなオチである。政宗は疲れたように頷いて、ふと問う。
「で、こっちはどうだ?」
「特に問題は無いのですが……」
「What's? はっきり言えよ」
 小十郎は顔をしかめている。政宗が問うと、すぐに答えてくれた。
「姉上が言っておられたのですが……愛姫様が、部屋に閉じこもって出てこないそうで」
「愛がか?」
 政宗は引きつる。まさか、愛は感づいているのだろうか……?
 そう思いつつ、政宗は顔をしかめながら馬から降りた。


「愛姫様。政宗様がご帰還されましたよ」
 喜多が声をかける。しかし、返事はない。
「愛! どうしたんだよ?」
 やはり何かおかしいと、様子を見ていた政宗は襖を叩く。だが結果は同じだった。
 心配して見に来た侍女や臣達もより一層不安な顔になる。こうなったら、と政宗は袖をまくる。
「仕方ねぇ。力ずくだな」
「駄目ですよ政宗様。Ladyは力で押しちゃ駄目と、あれほど言いましたのに」
 喜多は顔を膨らませる。さすがに乳母には逆らえまいと、政宗は困った顔をする。
「ならどうすりゃいいんだよ……ってか、本当にこの中にいるのか?」
「えぇ。三日前、私が政宗様のご帰還の日をお教えした後にこうなってしまいました……きっと、政宗様に腹を立てていらっしゃるのね」
 喜多は苦笑する。だが政宗は引きつる。
「三日もか? そりゃまずいだろ!」
「ご心配なく。夜中になるとお出になられるみたいですわ。湯浴みもご自分でなさっているようですし……とにかく、人前には出たくないようですね」
 首を傾げる喜多。ならばと、政宗は囁く。
「All right……夜中に聞いてみるよ」
「……それも無理だと思いますよ」
 あの愛の事だ。用心深く行くはずだろう……喜多もそう思ったらしいが、政宗は眉根を寄せる。
「だとしたら、他にどんな方法があるんだよ。これしかねぇだろ」
「そうですけれど……」
 喜多は目を襖の方へ向く。
 その中にいるだろう、愛はやはり沈黙を保ったままだった。


 その夜。
 寝所からこっそりと抜けて、政宗は愛の部屋へと向かう。
 八月の熱気は、真夜中にも襲い掛かる。にじみ出る汗を拭いながら、再びその襖の前に立つ。
 かつて南京錠が取り付けられていたそれは、未だにその跡を残す。だが愛は襖を変えようとはせず、そのままで良いと言う。
 どう考えても政宗に対する当て付けだろうが、政宗は愛の意志を尊重してやっている。
 罪償い、と言うよりも風化してはならない事実だからだ。伊達家に、二度とあのような事があってはならない。政宗は今でもそれを一人で誓っている。
 そこに立ち、跡を見る度に。
「……愛。入るぞ」
 囁いて、そっと扉を開ける。
 ……愛は、いなかった。
「……Shit」
 覚悟を決めてきたのにと、政宗は拍子抜けしてしまう。
 喜多の話が本当なら、きっと湯浴みに行っているだろう。政宗は敷きっ放しの布団に胡坐をかく。
 周りを見回せば、様子は特に変わった所が無い。しばらく政宗は座っていたが、思い直す。
「ここで待ってても……戻ってこねぇかもな」
 直接湯殿へ行った方が良いかもしれない。溜息をついて、また立ち上がる。
「あ……ま、政宗様」
 部屋を出て、そっと廊下を歩いていると、向こうから来る見回りの部下が小さく驚いている。政宗は手を振った。
「Thanks(ご苦労)! もう今日は休め」
「は、はぁ……」
 部下は頭を下げる。そうだと、政宗は思い出したように聞いてみる。
「愛の奴、見なかったか?」
「お、奥方様でしたら……湯殿の方へ行かれました」
「……お前が喜多に報告したんか? 夜中に出歩いてる事を」
 何やら知っているらしいと、政宗は訝しげに見る。
 部下はびくりと震えたが、それでも城主に隠し事は出来ないと白状する。
「喜多様にも問い質されたのです。本当は……奥方様に口止めをされていたのですが」
「Hun? 何でだ?」
「……理由までは詳しく存じてませぬが、『妙な音がしても、気になさらないように』、と」
「音か……」
 どうやら、夜中にこそこそと何かをやっているらしい。政宗はそこでようやく合点がいく。
「All right……呼びかけに答えなかったのは、寝てたからか」
「はい?」
「いや、何でもねぇ……ともかく、お前はもう寝ろ」
 飽きれた顔をしながらも、政宗はそう言い捨て、歩き出す。


 湯殿を覗くと、やはり湯煙が漏れていた。
 他の大名の室はどうだか知らないが、普段の愛は侍女を伴って湯浴みをしている。
 かと言って、一人でもこなせるらしい。入ろうかどうか迷う政宗は、こっそりとつぶやく。
「それにしても、長いな……」
 政宗が愛の部屋に着いてから、もう半刻だ。そんなに入っていればのぼせてしまうだろうに。
 もしかしたらそうかもしれない。用心深く、一歩踏み出す……が、それ以上は進めなかった。
「……あ」
 前を見ると、そこには愛が立っていた。
 しっとりと濡れた湯帷子は愛の体にぴったりとまとわりつき、結っていない銀の髪がその上を艶やかに彩る……ごくりと、政宗は喉を鳴らしてしまう。
 だが、愛は無表情である。ただ政宗を一瞥しただけで、背を向ける。
 そのまま、湯帷子をはらりと脱いだ。
「めっ……」
 裸など見慣れている政宗だが、この時ばかりは彼の宿敵のごとく、初々しく赤面してしまう。髪に隠れる肢体がいつも以上に艶かしい。
 とは言っても、この二ヶ月。女を愛でる暇なく奥州と甲斐を往来してきた政宗である。そう見えるのも仕方の無い事だろう。政宗は無理矢理納得させる事にした。
 襦袢と寝間着を身につけた愛は、そのまま政宗の脇を通り過ぎた。何か声もかけられないまま、政宗は後を追うしかない。
 真夏の夜の米沢城。静か過ぎる城内を二人で歩くのは何とも新鮮な事であったが、同時に息苦しさも覚える。
 政宗はその背を追いながら、じっと愛を見つめていた。黒い蝶の寝間着は、確か政宗が愛のために最近取り寄せたものである。
 二ヶ月は、長い。そんな事を感慨深く思っていると、愛は立ち止まる。もう自室に着いたようだ。
 襖をそっと開け、中に入る。閉めようとした所で、再び政宗と目があった。
「……今日は、何日でしたかしら?」
 そんな奇妙な事を聞いてきたので、政宗はようやく口を開いた。
「愛。お前な……」
「今日は、何日かしら?」
 だが愛は怯まず、繰り返す。険悪な雰囲気になりかけていたが、政宗の方が折れた。
「……葉月の」
 夜空を見上げれば、下弦の月。政宗は続けて言った。
「二十三夜、だな」
「山城も随分と遠い所ですけれど、甲斐の方が近いはずでしてよ」
 ずばり、と言った愛の言葉に、政宗は引きつりそうになる。それを見て、愛の目がますます細くなる。
「小十郎様のように、とやかく言うつもりはありませんわ。ですが、これだけは」
 夏でも凍れる声を、政宗は律儀にも身構えてしまった。
「……貴方は、どこの国の主ですの?」
 やはり、痛烈な言葉だった。政宗は胸を撫でたくて仕方が無い。
 自覚がある――とは言い切れない。
 責任は重過ぎるものだが、背負える自信はあった。しかし現実はどうだろう。改めて愛を見る。
 愛ならば、押し倒して話をうやむやにするのは簡単である。だがうやむやにした所で、胸中にはそれが残る……しかも、癒える事のない激痛を伴う言葉が。
 黙ったままの政宗を、愛は冷ややかに見つめる。
「私が言いたかったのは、それだけですわ……さて、今宵はいかがします?」
 どうぞご自由にとばかりに、愛は再び襖を開け放つ。
 数瞬迷ったが、政宗は部屋の中に入った。猫御前の部屋になど、今更行けないだろうと思っての事だ。こんな時でも、やはり体は素直である。いや、もう理性も降参状態だから、それに決断を委ねたのだ。
 愛はそれを見届けてから、襖を閉める。
「脱いだ方がよろしくて?」
 と、聞く。脱がすか脱がさせるか。それは政宗のその日の気分である。
 だが今日はどうしようかと、そんな事を考える余裕などありはしない。とっさに、言葉だけが出る。
「……それ、いつ来たんだ?」
 目は蝶の着物に向く。愛はそのままの顔で言った。
「二十日ほど前に」
「……そっか」
「貴方の十八の祝いに着せて楽しみたいのかと、思いましたけれど?」
 政宗は顔を歪ませる。
「楽しむって、んな事するために取り寄せたんじゃねぇよ……」
 しかし、そこまで言いかけて思い出す……間違いなく、そうである事に。
「……どうやら、そのようですわね?」
「Sorry……」
 頭を抱える政宗。そんな夫に、愛はしかしニコリとも笑わない。
「こんな柄、遊び女しか選びませんものね」
「だから、本当に悪かったって……でも、何で着てるんだよ?」
 嫌がっている訳では無さそうだが……と、聞く政宗に、愛は即答する。
「折角殿が私のために取り寄せてくださいましたもの。一度くらい着ないと、もったいないでしょう?」
「……一度だけか?」
「二度目からは小十郎様に見せ付けますわ」
「やめてくれ」
 溜息をついて、愛を抱き寄せる。
 抱きとめた愛の体は、二ヶ月前とあまり変わってはいない。変わっていた方が問題ものだが、何となく期待外れである。
「……まだ、十六なんだよな」
「和子の方が欲しいのなら、こんなもの送らないでくださいまし」
 さらりとつっこまれ、政宗は立つ瀬も無い。仕方ないので、そのまま一緒に横になる。
 疲労も残る体だが、久しぶりの女の香りが政宗を酔わせる。腰を撫で、帯を引く。
「……お前、実は俺の心読めるだろ?」
 何となく聞くと、愛はそこで二ヶ月ぶりの笑顔を見せた。
「そうだとしたら、もっと効果的な言葉を思いつけるでしょうね?」
「……だよな」
 口付けで黙らそうとしたのだが、愛は指で政宗の唇を拒む。
 そのいじらしい行為に、政宗は苦笑する。
「逆効果だぜ?」
「何をしたって同じ結果でしょうに」
 唇を撫で、愛も同じような顔でつぶやく。
「……来年もこうでしたら、もう祝いなどしませんわよ?」
「……OK.来年はちゃんと米沢にいるからよ」
 愛の手を掴んで、その細い指を右目の方にやる。
 冷たい鍔飾りの紐を外させれば、二度と開かない右目が現れた。
 祝福された誕生だったのにも関わらず、それのせいで地獄に落とされた、憎憎しい右目。
 しかし愛は十四の祝いの折に、幼い唇で口付けてくれた……それが嬉しくて、以来それを毎年して貰っている。
 自分が、その日に祝福されて生まれてきたという事を忘れたくないがために。
「……そうだ」
「はい?」
 吐息がかかるほど、愛の顔が近づいた時、政宗はふと聞く。
「……どうして夜更かしなんかしてるんだ?」
 聞くのなら今だと、政宗は問う。すると愛はまた微笑する。
「毎年朝まで離さないのは、どこのどなたです? 折角今年こそは共に過ごそうかと思ってましたのに」
「それだけか?」
 頑張って起きていたいからと、体を慣らそうとするだけではおかしいだろう。そう思う政宗に、愛は不満そうな顔でつぶやく。
「もう、お分かりになっていらっしゃるかと思ってましたのに……」
「What's? 何だよ、一体……」
 政宗は首を捻るばかりである……が、愛の背後に何かが光ったのが見えて、目をこらす。
 ……畳の上に落ちていたのは、針だ。
「Hey, あんな所に……」
「良いですわ。どうせ、この着物と同じですもの」
 自分で脱ぎ捨てた蝶の着物。はらりと針の上に舞い、さらにその上に襦袢を重ねる。
 政宗の着物の袖を乱しながら愛が上に乗ると、空いた手で右頬を撫でる。
 ぺろりと、かつて小十郎が眼球と共に削いでしまった、目蓋の傷跡を舐めてみせる。
「良い眺めでしょう?」
 艶やかな笑み。揺れる肢体に魅入るよう、政宗の左目が細まる。
「……今年は叩いてでも起こすぞ。覚悟しろよ?」
「えぇ。望む所ですわ」
 再び唇が右目をなぞる。慈しみをもっての口付けだったが、政宗の獣心を目覚めさせてしまう。
 上下を逆にし、政宗は自分の帯を解きにかかる。
 それを見る愛の目は、何故かひどく残念そうだった。理由は分からないが、政宗とてもう余裕はない。
「……また、来年もしてくれ」
 愛の手をとって、右目をなぞらせる。湯殿で湿った指先が、とても心地よくて堪らない。
「……はい」
 政宗の顔は緩むばかりだが、愛の方はそのままだった。


「……着物を? 一体どういう風の吹き回しですか?」
 その事実を聞かされたのは、翌朝の事である。小十郎は顔をしかめる事しか出来なかった。
 未だ起きて来ない政宗の代わりに執務を代行している猫は、そんな小十郎の反応に苦笑しながら答えた。
「贈り物を貰ってばかりじゃいられなかったみてぇだぜ? 俺に聞きに行ったほど、何か贈りたかったんだろうな」
「まぁ。それで布が一反、無かったのね……」
 その脇で茶を注ぎながら、喜多は思い出すようにつぶやく。
「二十日ほど前に新しく届いた布が足りなくて……そうね。丁度政宗様が注文した着物も、一緒に届きましたもの。思いついたとするのなら、その時からですわね」
「それで三日前に帰還の報を聞いたから、夜通しで仕上げたのですな……全く。人騒がせな方だ」
 小十郎は溜息をつくも、顔にはようやく苦笑が滲み出る。
 愛が裁縫上手だとは思えない。しかも誰にも気づかれずにやるとなれば、細心の注意を払って指を傷つけぬようにしたはずである。それ故に猫以外には、誰もそんな事を知られずに、こっそりとやってのけたのだ。
 とは言っても布を盗んだ事には変わり無いので、後で問いたださねばならないが。
 それでもそんな顔をするのは、ようやく愛が妻らしい事をしたからだ。と、そこで苦い声が聞こえてくる。
「あの着物……愛が作ったんか」
 政宗である。まだ眠たそうだが、どやされる前に起きたのか……もしかしたら久々の伽のせいで、徹夜かもしれないが。
「だからあんな顔してたんか……後で何とかしねぇと」
「今から行ってくればいいだろ。徹夜明けにまともな執務が出来るかよ。『俺』だったら迷わず部屋に戻るぞ」
 猫は苦笑しながら小十郎を見やって言う。そこまで律儀に主を真似るなと、小十郎は呆れた顔を作る。
「……今日は明日の分まで、きちんと休養をとってくだされ」
「OK……そうしとくぜ」
 と、よたよたと去ってゆく主の後姿を見て、小十郎はひっそりと呻く。
「全く……政宗様には国主としての自覚が足らないようだ。成実様の事など言えやしない」
「年に一度は、いいんじゃねぇのか?」
 猫は苦笑しながらつぶやく。
「そう、年に一度は……ね」
 男のような鋭い顔にふと見せた、猫の女としての表情――それに見惚れてしまったせいで、小十郎は二の次を出し損ねた。


「……My god.縫い目がめちゃめちゃだぜ」
 未だ眠る愛の傍らで、政宗はその寝巻きを眺めていた。
 寝所に用意してあったから着たのだが、多分愛が侍女が用意したものとすり替えたに違いない。こんなものでは、侍女も政宗に出そうとも思わないだろう。
「まぁ、二十日間でここまで出来りゃ……上等か」
 優しく愛の髪を梳きながら、政宗は微笑む。
「けど、二十日で出来るもんなのか?」
 と、そこで政宗が眉を寄せる。とっさに思いついたのに、見た目は上手く出来ている着物を二十日で作れるものだろうか?
 しかも、初めて針を持ったはずの彼女が。
「……これ、か?」
 気になって、針箱らしきものを探してみる。それはすぐに見つかった。
 中に入っていたのは、針が数本と糸の束、そして――針の穴だらけの、ぼろぼろの布切れ。
「……最初から、作るつもりでいたんだな」
 政宗はようやく理解出来た。
 布は盗むしかなかったようだが、せめてと運針の練習くらいは事前にやっていたのだ。
 おそらく、彼女がそう思いついたのはもっと前、政宗が着物を注文していたのを知った時だろうか。そこまでは推測でしかないが、もしかしたら以前から練習していたのかもしれない。
「自分の誕生日のくせに、着物を贈るなんて馬鹿みてぇだって思ったんだろ」
 そう、ちょうど二十日前が誕生日であった。もちろんその日にしてくれと頼んだから来たのだが、きっと愛は盛大に呆れただろう。
 だがそう言ってみるも、愛は小さく寝息を零しただけで答えない。
 ただ、幸せそうな寝顔が心を和ませる。
「……でもな、お前のその顔が欲しいんだよ、俺は」
 その銀の髪を一房、手に取り、口付ける。
「Thank you……愛」
 そして、バタリと……愛の横で倒れるように眠ったのであった。


 けど……それでも今日だけは特別なんだから。



<了>



▼後書
 甘いんだか辛いんだか酸っぱいんだか・・・わかりゃしねぇよ。(爆)
 言い訳っぽいけど、多分愛は濃姫様に会った事、無いのかと思います。(オイ)


2006/12/26
2009/12/16…サイト移転により、加筆修正。

2014/07/13:
 サイトリニューアルにより改修
 政宗公旧暦生誕日では無いですが、何となくそういう話になりました。
 うちの不器用愛姫様はここからかな。これだけで済めば良かったんだけどねぇ筆頭……(それは別のお話にて)。


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