こんな奴の相手なんか、してられるか。


「愛! どこに行った!」
 伊達政宗の怒声が城中に響き渡る。
 その背を追うのは頭巾を被る小袖姿の猫御前。
「政宗様、今は出てこないかもしれませんよ……」
「お前、どこにいるか……知ってるだろ……」
 政宗はろれつの回らない調子で詰め寄る。その引きつった顔を見て、猫は咄嗟に引いてしまう。
「ま、政宗様……それを知っていたら、私は真っ先にお答えしていましたが……」
「そうかぁ? お前ら、最近仲良いじゃねぇかよ」
「だからとて、政宗様に隠し事など……私は出来ませぬ」
「あ。梵兄発見!」
 と、猫が足止めをしている間に、廊下の曲がり角から、伊達成実が叫ぶ。
「早く! こっちにいたぞ!」
「政宗様っ……御免!!」
 遅れてきた片倉小十郎達が、何事だと振り向いた政宗に一斉に飛び掛る。
「Why! 何すんだテメェら!」
 しかし抵抗むなしく、政宗は縄で身動きが取れなくなる。
「はっ、離せよ!」
「政宗様……」
 小十郎は静かに、その名を呼ぶ。
 そして、息を深く吸い込んで――。
「あれほど酒を飲みすぎるなと言ったじゃねぇか! この酒乱がっ!」
「んだとぉ? おいテメェら! 俺じゃなくって、小十郎を捕まえろよ」
 一喝する小十郎に政宗は激怒するが、誰も政宗に従わず、ただ呆然と見るだけだ。
 誰がどう見ても、間違いなく酔っ払っているだろう主を。


 政宗が酒を始めたのは十二の時であるが、実際は定かではない。
 だから彼がここまで酒乱だったとは、その頃は誰もが思っていなかった。いや、むしろ彼は酔えないほど、酒に滅法強い方だったのだ。
 その兆候が現れたのは、奇しくも二年前。母をその手で追放してから、慰めに酒の量が増えたのだろう……彼の酌をした事もある喜多が語る。
「でも、そこまで酒乱だったなんて……私も知らなかったのよ」
「それはそうだろう……愛姫様も知らずに酌をしてたくらいだ」
 あの悲劇を思い出しながら、小十郎は溜息をつく。

 その事件は米沢城――特にそれを知る者達は、誰もが怯えながら語るほどの大事である。
 それは、あの『撫で切り』後に起こった。
 当時、『撫で斬り』によって身体もそうだが、精神も擦り切らせていた政宗を慰めていたのは妻と酒であった。
 双方とも、酔えば『撫で切り』やその他の辛い事を忘れさせてくれる……そこまでは、今の愛も百歩譲って納得はしているという。
 しかし、ある夜。いつもよりも飲みすぎたせいか、とうとう酒乱が発現してしまったのだ。
 その次の朝、城中が大騒ぎになり、小十郎の雷が二日酔いの政宗を呆気無く昏倒させてしまう羽目になったのは言うまでも無い。


「あの日の愛姫様は、もう可哀想なくらいで……精神的にも回復したのは、結局一月後でしたわね」
「輝宗様は外交にも酒を使っていたほどだ。義姫様も弱い方では無かったはず……この先、政宗様も輝宗様のような事を、図らずもする機会があるはずだ。今のうちに矯正しなければ……」
「いいや、矯正しなくとも出来る事はある」
 と、苦い顔の小十郎に言ったのは、下戸の鬼庭綱元である。
「私のように、酒を飲まなければ良いのです」
「最終的にはそれが一番良いよな……」
 どちらかと言えば良く呑む方の留守政景は大仰に頷く。
「けどな……それを快く思わねぇ奴もいるのは確かだ。あいつの酒乱を見越して、宴をわざとぶち壊させて外交の支障にするっていう手を使ってくる奴も、これから出てくるだろうぜ」
「そうですな……ところで愛姫様はどこに行ったのです?」
 小十郎は今更思い出したように、義姉に問う。話を振られた喜多は首を傾げる。
「私は知りませんわ……御前様は?」
「いや、本当に俺もしらねぇんだよ」
 今は自室で監禁されている政宗の代わりに、上座に座る猫は首を横に振る。
「どこに隠れてるんだか……あいつ、あの方が一人で酒飲んでるのを見るなり、逃げたんだろ?」
 今回は、それが原因で愛姫は雲隠れしている。
 あの事件以来、政宗の飲酒に過剰に怯えるようになった愛は、酌すらも放棄するどころか、飲酒時には身を隠すようになったのだ――そうしなければ、政宗はあの時のように、愛に慰めてもらおうとするだろうから。
 優しければ良かっただろうが、そうでなかったからこそ問題だ。猫は身震いしつつも、つぶやく。
「まぁ、それが最善だよな。押し倒されたら一巻の終りだっただろ」
「そんなにすげぇの?」
 成実は引きつりつつも、怖いもの見たさで聞いてくる。それに猫は顔を引きつりながら頷いた。
「まぁな。さすがに、あそこまでされたら……誰が何と言おうとも、影武者も側室もやめますわ。私は」
「……そこまでか」
 猫が口調を『戻す』ほどか。小十郎は頭を抱えながら呻く。これは矯正だけで済むものではないようだ。
 その隣で、成実も同じ事を思ったようである。
「……何か、酒乱が問題じゃねぇような」
「だよな……兄貴がどうやって義姫を落としたのか、何か分かった気がするぜ」
 政景がそうつぶやくと、政宗の父たる輝宗から仕える者達も重々しく、賛同するよう頷く。
「確かに……あの義姫様は口車だけで乗せられるようなお方では無いな」
「殖宗様も晴宗様も、たくさんお子を成されているし……やはり、政宗様も伊達の血を受け継いだだけはあるのかもしれんぞ」
「……と、とにかくだ」
 男達の会議を中断すべく、猫は咳払いをして言う。
「あのお方のためにも、酒乱を治す術を各自見つけて、報告しろ。強制では無いが……」
「いえ、早急に見つけてきてくださいまし!」
 と、そこで乱入する声。
 悲鳴のように甲高く叫ぶのは、どこからか現れた愛だった。
「もう、こんな思いをするのはたくさんです! 後生ですから……」
 ずるずると座り込んで、涙すら浮かべる愛……誰もが、そんな愛を凝視する。
 普段とは打って変わってのしおらしさ……そして苦渋に崩れながらもなお映える生来の美貌は、重臣達の心を動かした。
「お、お任せくだされ!」
「すぐにでも効果的な方法を見つけて参りまする!」
 負けじと言い張る者達……だが、古参の重臣と小十郎達はさすがに動じなかった。
「いっその事、このままでも良いんじゃねぇか? あんな姫を見られるくらいなら、俺はこれで良いぜ」
 つい呆れてしまう小十郎に、政景はニヤニヤと笑いながら囁いた。
「あの姫にも弱点くらいはあった方がいいじゃねぇか。いざとなったら、使えるぜ?」
「……そういうのは言わないのが吉ですぞ」
「あ、そうだな」
 やはり聞いていたのか、恨みがましく睨む愛の視線を、小十郎は振り払うように無視する。
 困る事もあるが、決してそれだけではない。政宗と並んで厄介極まりない愛にも、日常的な弱点くらいはあった方が良いのだ。
 そもそも、こうなったのは彼女にも原因があるのではないか……そこで、ふと閃いた。


「えぇ……そう言われますと、何か誤解に取られた事もあったかもしれませんわね」
 愛はようやく落ち着いたのか、ふぅと溜息をつく。物憂いそうなその姿は、さすがの小十郎も心を揺り動かしてしまうものがある。
 ましてや彼女の自室で二人きり、だ。
「では、心当たりは……」
「……思い出したくありませんわ」
 物憂いな表情から、嫌悪なものに変わる。それほど嫌な記憶のようだ。小十郎は口元を引き締める。
「政宗様のためにも、そして何より貴女様のためにも思い出していただきたい所ですが……無理な事であれば、結構です」
「あら、私のために……? 面白い事を仰るのね」
 愛はくすくすと花のように可憐に笑う。
 それを見て、小十郎はまたも溜息を漏らす。こうして二人きりで話すのは、実は久しぶりな事である。
 とはいえ回数自体はかなり少ない。最初から胡散臭い姫だという先入観じみたものを感じていた上、やはり何より大切な政宗を殺そうとしたのだ。そんな女など、主君の正室に相応しくない。
 とは思っていても、それを決して口にしてはならない所が厄介である。小十郎は愛から視線を外そうと、顔を襖の方に向ける。
 が、ぺちりと。愛は持っていた扇で小十郎の頬を叩く。
「私の顔はこちらにありましてよ?」
「貴女様をあまり不躾に見ては、失礼かと愚考したまでですが」
「殿に、ですの?」
 愛は、それでも目を背けようとする小十郎に微笑する。
 実に艶やかな、微笑だ……昔は幼げな笑顔しか出来なかったのに、すっかり見違えたものである。
「命に代えても惜しくは無い主君の妻に、そのような態度を取ったと他の者に知られたら、どうするおつもりですの?」
「そういうお方であれば、幽閉などさせはしなかったでしょうな」
「ふふ。そうかもしれませんわね」
 しかし愛はもう、笑ってなどいなかった。
 薄い布に包まれた手が、伸びる。
「私とて、『それ如き』に怒りを覚えるのであれば、とっくの昔に……」
 顔の代わりとばかりに、首筋をなぞる。とっさの事に、小十郎は何も出来ず、目だけを見開く。
「貴方は死んでいましたわよ」
 そっと、力をこめる――だが小十郎にとって、それは決して『そっと』などでは無かった。
「ぐぐっ……!」
 思わず愛の腕を引き離そうとしたが、愛の指先は気道を塞ごうと身構えている。
「ふふ。男の方は、私達女を舐めていらっしゃるわ。力より、速さで決着がつく事もありますのに」
 キレてんじゃねぇかよ、この女は!
 叫びたかったが、声もままならない。下手に動く事も出来ず、とうとう愛を見るしかなくなった。
 目を合わせば、ようやくと。愛はまたも微笑。
「お話をする時くらいは、ちゃんと私を見てくださらないかしら? とても傷つきますのよ」
 愛はそう言いながら、手を離す。
 ごほっ、と咳き込む小十郎は、忌々しく愛を睨む。
「て、テメェ……」
「あら。私に何を聞きたがっているのかしら?」
 愛は立ち上がると、軽やかな足取りで部屋を出る。
「お、おい! 待て!」
 息がままならない中でも、小十郎はその後を追う。
 愛の足は意外に速い。男の小十郎も追うのがやっとである。
「こ、このアマっ! 待ちやがれ!」
「まぁ……下品な言葉遣いですわね!」
 何故か楽しげに、後ろを向く。
 手には仕込み傘。
「なっ!」
 銃かと思った小十郎は咄嗟に屈むが、それは愛も見越してか、傘をすかさず下方に向ける。
 ――発射。
「なっ……何だ!」
 銃では無かった。小十郎は顔を腕で覆うが、それすら遅かった。
 銃口でもある傘の石突が何故か飛んでくる。かと思いきや、それは傘と鎖で繋がれている。
「仕込み鎖ですわ。見た事なくて?」
「うわっ!」
 分銅代わりの石突が、小十郎の身体に絡み付く。気がつけば政宗と同じ状態で、無様に廊下に転がる。
「テメェ……タダじゃすまねぇぞ……おい、何するつもりだ?」
 膝をしたたか打った小十郎はその鈍痛に顔をしかめるが、愛の様子に気づいて頬が緩んでしまった。愛は引きずるつもりで鎖を引っ張っているのだ。
 しかし細腕の愛では、仕込み傘よりも重いものは持てまい。やはり小十郎の身体はぴくりとも動かない。
「重いですわ……何とかなりませんの?」
「なるか!」
 小十郎はつい叫んでしまったが、そうした所でどうにもならない事も知っているから、自ら立ち上がる。足は自由だったのは、このためのようだ。
 そもそも、この仕込み鎖は戦で捕縛用として使うよりも、自分の脱出用に使うためだ――しかしこんなものがあるにも関わらず、愛はずっとあの部屋にい続けた。
「……貴女は、どうしてずっとあの部屋にいたのですか?」
 聞いてみるが、愛は答えず、ただ静かに歩き出した。
 しばらくそのまま距離を保って歩き続ける二人。周囲に人はいない。
「何処に向かわれるつもりだ。誰も、いないようだが……?」
「いるはずがありませんわ」
 愛はすかさず返した。
「ここは殿が立ち入りを制限している所……かつて、奥方様と小次郎様が城内に滞在した時におわした所ですわ」
「……こ、ここが?」 
 小十郎は思わずうめいた。
 政宗の御付ゆえに、自ら近づかなかった義姫達の領域……それなのに、愛は構わず歩き続ける。
「殿も、ここには近づかないそうですわ。たまにここを掃除する女中が、出入りをするくらいかしら」
「……政宗様が、指示を?」
「知らなかったのかしら?」
「はい、私は何も……」
 別に、そこまで関与する理由などない。小十郎はそうつぶやいたものの、頭を振る。
 政宗がずっと行きたかった場所……そこを自らの手で封印したのを、とやかく言う理由も。
「では、貴女は……」
「私も、たまに出入りしてますわよ。殿が酒を飲む時に」
 愛は苦く笑う。そうかと小十郎は合点がいった。
 ここに隠れれば、政宗は来やしないのだから、見つかるはずもないだろう。
「本当は、来て欲しいのに」
 ぼそりと言いながら、ある部屋の襖を開く。
 今もなお、煌びやかな様相の部屋である。どうやら、義姫の部屋のようだ。
「殿は、酒が入ると……素直になれるのかもしれませんわね」
「素直?」
 奇妙な事を言う愛に、小十郎は首を傾げる。
「そう、素直ですわ。酔うけれど、酒乱になるのではありませんのよ。ただ、素直になれるだけ」
「と、すると……?」
「……貴方、何年あのお方の傍にいますの?」
 愛は呆れたようにつぶやく。
「殿は、もう昔のように己を出せませんのよ。全ては、この奥州のために」
 そして、悲しそうにつぶやく。
「あんなに若くして継いだその直後に、あの『事件』……けれど、全てを背負ってでもやろうとした、その代償ですのよ。死ぬか、隠居するまでは、決して誰にもその弱みを見せてはならない……少なくとも、家臣達には」
 それで小十郎は、ようやく気がついた。政宗の心の負担は、そこまで及ぶらしい。
 確かに政宗は歳を重ねて少しずつ乱暴になってきたものの、家督を継いでからは、そんな様子を見せてはいない。
 ただ見ているのは、酒乱で暴れる主だけである……。
「殿私に当たるのは……それも仕方の無い事ですのよ。殿だって、辛いのですから。けれど、酔うとまるで……二年前の事を思い出してしまって、それが耐え切れなくて……」
 ふらりと、愛はその場に座り込んで、己の二の腕を抱くように掴む。
 先入観。そのまま震えだす愛を見つめながらも、小十郎は眩暈を覚えてしまった。


「酒が入ると、どうもな……やっぱ酒乱だな。俺は」
 ようやく酔いも引いたのか、政宗は頭を抱えながら笑う。
「愛があんな事言ったって、気にすんな。あいつはそうやって、自分に言い聞かせてんだよ」
「いえ。愛姫様にも、一理はあるかと思いますが」
 小十郎は首を振る。
「あの朝……愛姫様がそう言ったせいで、我々も酒乱だと勘違いをしたのかもしれませぬ。酒が悪いんだと……」
 しかし、それが正しいかどうかは分からない。小十郎は言いながらも悩む。
 愛が意図的に怖がっているフリをしてみせているだけなのかもしれないし、政宗が本当に酒で人格が変わる性質なのかもしれない。だが、これだけはと言う。
「政宗様の負担を少しでも減らそうとして、逆に抱え込ませてしまったのは、我々の失態でございます。ですが、政宗様……我々は貴方の臣なのです。どうか一人で抱え込む事は無きように……」
「んな事ねぇだろ。てめぇらには、大分世話をかけちまってんだ……酒如きに悪酔いしてるだけだ」
 政宗は手を振って、外を見やる。
「特に、愛……あいつには相当、な。傷も癒えないのに、俺だけ辛いみたいによ……だから酒が入ると二年前みたく、色々当たっちまうんだろうな。でも、それでも俺はどうしても酒が手放せなくなっちまってんだ」
 困ったように、政宗は苦く言う。
「のまねぇとやっていけねぇんだ。最初は、少しでも母上にやってしまった事を、自覚したくなくてな。それで、量も段々増えて……」
「……そうでございますか」
 小十郎は静かにつぶやく。
 ……これが主の弱さなのかと、思いながらも。


 再び義姫の部屋に戻ってみると、愛は縁側で、ぼんやりと座っていた。
「あら……殿は、もう良くなりまして?」
「大分、酔いは引いたようです。少量だったのでしょうな」
「それで、何か言いましたの?」
 愛はつぶやくように問う。
「殿が言う事は、大方推測は出来ますわ。どうせ、私は戯言しか言ってないと……」
「どうして、そう思うのでございますか?」
 鋭い愛の言葉に、小十郎は見透かされた心地になりつつも、問う。愛はいつもよりも控えめな笑みを浮かべてみせた。
「そう言わないと、私が間違っていない事になりますもの。実際、私の方が正しいでしょう?」
「どちらかと言えば、でしょう」
 小十郎は苦く言う。
「あの方が貴女を否定するのは、自分の行いを否定するためですぞ。政宗様も、御自分でやった事を認めようとしておられるのだ」
「そうですかしら? 今もまだ、ここに来られないくせに」
 愛はくすくすと笑いながら、言う。
「あの方が酒の量を増やした理由は、酔って少しでも、辛い事から遠ざかりたいから。それは、今も変わっていらっしゃらないのよ。弱さを見せられなくなった代わりに、逃げられなくなった代わりに、少しだけでもいいから、慰めが欲しいのですわ。最も、本当に欲しかったものを自分で捨てたせいで、それすらも気休めにしかならないけれど……」
 ふぅ、と一息ついてから、立ち上がる。
「……私では支えきれないほど、あの方も辛いのです。いえ、我ながら良くここまで傍にいられると、不思議でなりませんわ。けれど、これは私が選んだ道……」
 荷を再び抱えなおすように、愛はふらつきながらも歩き出す。
「私が、皆の前で言った事……取り消してくださいませ。私がもうしばらく……」
「貴女も、一人で尽くそうとなされるな」
 小十郎は厳しい声音で言う。
「政宗様を支えるのは、貴女だけではない。我々もだ……自分だけで救えると驕るのは、俺がゆるさねぇぞ」
「……では、許されなくて結構ですわ」
 愛はもう、小十郎を見ずにつぶやく。
「自分が立てられなくなるよりは……そちらの方がよろしくてよ」
 歩みだす愛に、小十郎はもはや何も言えなかった。


 そう、一番救われたいのは彼女のはずだ。
 しかし、とうの昔にそれを捨てたのだ。伊達の女として、『本当の政宗』を覆い隠すために。
 もはや、それだけが彼女の支えであるほど、何が彼女を追い立てるのだろうか?
 自分の人生を賭けてまでも、政宗はそれほどの価値があるのか?
 いや。それこそが愛が政宗を殺せなかった理由に繋がるのか……?


 ……程無くして、彼は愛の心の内を、ようやく知る事になる。



 <了>



▼後書。
 『金減案』の続きっぽい。ってか、三部作にする予定です。
 酒乱の真相だったんですが、どうなんだろなー。
 つーか、小十郎と愛かぁ。意外な組み合わせになっちゃいましたな。
 でも、これはこれでいいかも。

 2007/04/12

 ※2009/12/16…サイトリニューアルにより、加筆修正。

2014/07/13:
 サイト移転により改修
 三部作の二番目というよりも、酒乱シリーズの始まり。
 小十郎さんと愛さんの確執?もここからですね。うちの小十郎はどっちかと言ったら政宗好きよりも愛さん嫌いな人だからのう。(刃示参照)
 ……あ、そういえばこの酒乱の当日話やってないね。裏部屋どうしようかのう。(何のフラグだ)

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